ある日の私の身体の声 〜 二日酔い篇( 2 ) 〜

私は電車に乗っていた。

ガタンガタンという粗雑な揺れに、様々な人から発せられる様々な匂い。

二日酔いの症状を助長するには充分過ぎる条件だ。

私はこのぬったりとしたゼラチン質に占められた胃の重苦しさのイメージの中に意識を空気のように漂わせた。


そこにはとろみのあるゼラチン質の液体が静かにたゆたっている。

何処からか、誰かの鼻をすする音が聞こえる。

電車の乗客。

風邪なのかアレルギーか、定期的にズズッ、ズズッと鼻をすすっている。

その音をイメージに取り入れて私は又重苦しい胃のイメージの中に意識を漂わせる。

すると今まで静かにたゆたっていたゼラチン質の液体が

ズズッ、ズズッという音につられて、まるで吸い上げられるかのように波立ち始めた。

波は段々激しくなりそれは大きな渦となる。

白い空間の中央に

大きな渦が1つ。


何処かで見た光景。


私は思う。


そうだ、

以前、意識を連れ去られるかのように見たストーリーと同じ状況。

あの時はその渦の中に赤い金魚のようにグルグルハマって楽しんでいる存在があった。

そしてそれは、真っ赤なロングドレスを着た自分だった。

果たして

今回もワタシはそこにいた。

渦の中でグルグルハマって、楽しそうに泳いでいる。

赤いドレスのワタシは、私を見つけるとフワッと目の前へと降りてきた。

そしてこう言い放つ。

「まだ気付かないの」

私はとまどう。

何に気付いていないのか、それさえも分からない。

ただ今は

「どちらを選べばいいのだろう」

「どちらを  諦めればいいのだろう」

と思い悩んでいるだけ。


その時、赤いドレスのワタシから、何か透明な丸いゼリーのようなものを胸に投げ込まれた気がした。

そして瞬間遅れて、気付きがきた。

その形而上的な丸いゼリーを言語に翻訳して認識した感覚。


今の諦めが一生の諦めとは限らない。

今、どちらかの道を選んでどちらかを諦めたとして、

先はもしかしたら繋がっているかもしれない。


そして


自分の考える2つの選択肢があったとして

人生とは得てして

その迷いを経ての第3の選択肢が出てくるものなのだ。


赤いドレスのワタシは渦の中へと戻っていく。

そして渦に身を任せることを愉しむ。


そう、

私は激しい渦の中に身を任せることを愉しめる。



ドレスの裾がひらひらなびいて

その姿はまるで、赤い金魚のようだ。

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